大理石

<退職勧奨>

1. 退職勧奨とは 

   欧米などとは異なり、日本の労働法制においては解雇は厳しく制限されています。その様な中、敢然と解雇をしたとしても企業は訴訟リスクを負いますので、実際に簡単には踏み切れないものです。そこで、企業側から(辞めて欲しいと考えている)労働者に対して、労働契約の解約の申込をするという手段がとられることがあります。これが、「退職勧奨」です。

 読んで頂いて分かる通り、解雇ではありませんので強制力はありません。文字通りの「勧奨」であって、労働者側がこれに応じる、すなわち申込に対して承諾する義務はありません。つまり、既存の労働契約を双方の意思の合致によって終了させるという新たな合意ですから、普通の売買契約等と同様、「申込」と「承諾」が必要になるということです。実際、何らの条件もつけずにただ辞めてくれないかとお願いされても、労働者がこれにるインセンティブは全くありませんので、通常は割増金等のいわゆる「パッケージ」と言われるものを企業側が提供することが通常です。もちろん、退職しても良いとは考えても、提示されたパッケージが魅力的でなければ、承諾する必要はありませんし、承諾しなかったこと自体で不利益を蒙ることはありません。端的に契約不成立というだけのことです。

 退職勧奨は、労働者側の任意の承諾を求めるものであり、強制的に承諾をさせることは出来ません。もし企業側からた労働者側に対して退職強要と言うべき言動があれば、その退職勧奨は不法行為を構成することがあり得ます。

2.事実上の戦力外通告

   1.では原則論を書きましたが、そうは言っても企業側としては、部門事体の閉鎖というような場合であればともかくとして、「今後雇い続けるのは難しい」、「辞めて欲しい」、もっと突っ込んだ書き方をするならば、「出来ることなら解雇したい」と思う労働者に対して退職勧奨をすることが通常です。企業にとって辞めて欲しくない人にまで退職勧奨をするような非合理的なことを企業はしませんし、仮にその様な方にまで辞めて頂く時には、もう整理解雇の域に達しているように思われます。

 従いまして、労働者の方にとっては、事実上の戦力外通告に等しいものであると受け止めることも多く、また実際にその様な側面を否定できません。退職勧奨をするにあたっては、「会社にはもう適切なポジションがない」、「このまま会社に残るよりは、外に出て新しいチャンスを探ってみてはどうか?」といった話法で企業側は詰めてきますので、ショックも大きいものであることは確かです。

3.退職勧奨を承諾しなかった場合の処遇

 先に書いた通り、退職勧奨はあくまでも企業側からの任意の労働契約の解約申込であり、承諾するかどうかは労働者側の自由です。従いまして、退職勧奨を受諾しないのであれば、そのまま従来の労働契約が継続するだけのことです。

 しかしながら、一度は企業側が事実上の戦力外通告をした以上、その後も継続して退職勧奨をすることもあるでしょうし、配転等を絡めて雇用は継続されるものの、人事考課等で高い評価をつけられるということもなく、むしろ低い評価で降職・降級等で結果的に追いこんでいくということも多く行われます。また、よくあるのが、PIP(Performance Improvement Program)といって、建前は対象となる労働者の業務の改善指導なのですが、実際には日々報告を求めて退職に追い込んでいく目的のためです。これらは、行為態様によってはパワハラ等に該当する可能性がありますので、その場合には不法行為責任や債務不履行責任を問題にすることは出来ます。もっとも、企業側も目立ってその様なことはしませんから、企業側の合理的な人事権行使・裁量の範囲であって、法の助力を受けることが必ずしも容易ではないという側面もあります。

 退職勧奨を受けた方にとっては厳しいかもしれませんが、厳然たる事実としてご理解頂く必要があります。

4.退職の条件とその交渉

 退職勧奨を受け、その際に企業側からパッケージの提示を受けることになるかと思いますが、承諾するかは自由である以上、その提示条件を呑むかどうかだけを考える必要はありません。どの様な条件で退職に応じるかは契約自由の原則の妥当するところですので、交渉してお互いに歩み寄れるところで妥結すれば良い話です。

 もっとも、ただでさえ退職勧奨によって落ち込んでいる中にあって、交渉する気力まで持てない方も多いでしょう。そこで、交渉については弁護士に依頼するということも一案ではないでしょうか。労働者の方だけではカバーしきれない法的専門知識を通じた助力を提供しつつ、企業側を交渉の舞台に引っ張れる可能性が広がります。あくまでも交渉の結果次第ではありますが、当初の提示よりもより良い条件を引き出すべく対応します。尚、その際の費用についても、労働者の方々の個々の状況によって、合理的な設定をすることも可能です。

5.パッケージの相場

 退職勧奨の際に提供されるパッケージの相場はどのようなものでしょうか。

 これについては、一概に決めることは出来ません。退職勧奨をする必要に至った理由、その労働者に退職に応じて貰いたいと思う程度、給与、役職、勤続年数、勤務成績、企業の財務状況、企業における過去の取扱、業界他社のマーケット水準、世の中の景気動向等、諸々の要素を勘案した上で、個別具体的にそれぞれ決まるものであるので、明確な相場を回答することは困難です。

​ その中でも敢えて物差しを示すことを試みるならば、勤続年数に応じて1年なら月例給与の1か月分、2か月分、・・・最大で10か月分といった例は見たことがありますし、一律1か月分といったこともあるやに聞いています。これが、外資系の金融機関ですと、24カ月ともそれ以上とも言われたりすることがありますが、例外の域ではあるので一般的に妥当する話ではありません。

また、退職勧奨に関する判例については、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の以下のリンクで詳説されておりますので、併せてご参照ください。

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/10/82.html

退職勧奨を受けた際には、一人で悩んでいるだけでは企業と労働者の力関係からも、有利な条件を引き出すことは困難ではないかと思われます。

弁護士がより良い条件を模索するべく交渉を請け負ったり、また退職勧奨後の対応についてのアドバイス等が可能ですので、いま一度ご検討の上、ご相談されることをお勧め致します。どうぞお気軽にお問合せ下さい。

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