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  • 弁護士 岩山勝湖

「がんの治療を直接の目的とする入院」について

久しぶりに保険のことを書いてみます。私は、生命保険業界でも勤務する立場ですが、約款の解釈については生命保険協会の裁定審査会(ADR)をかじって読んだ程度で、詳しくはありませんでした。今回は、たまたま保険金を請求する側として質問されたケースがあり、これを契機に当該部分の約款解釈について調べる機会を持ちました(私の勤務しているまたはしていた保険会社とは全く無関係ですので、念のため)。

 結論から申し上げますと、支払いについて争ったということは全くなく、すっとそのまま支払われた案件ですので、実はさして論点ではなさそうです。一方で、今回支払いのあった某生命保険会社の取扱いが、他でも遍く同様に扱われるかは私の知るところではありませんので、その点はご理解ください。

 かなり省略して概要を申し上げますと、「がん治療で放射線治療を行った結果、副作用として間質性肺炎を発症して入院した(①)。いったん軽快して1年ほど空けた後、再び間質性肺炎を発症して入院した(②)」という事案です。そして、これらの入院①及び②ががん保険の給付対象となるか、ということが検討課題です。

 がん保険における入院給付の支払い対象は、表題の通り「がんの治療を直接の目的とする入院」であることです。一般的に「がんの治療を直接の目的」という文言から受ける感覚的には、上記の例で言えば放射線治療までは該当することはまあ言葉の感覚的にも疑いのないところですけど、その後の副作用としての間質性肺炎についてはどうでしょうか。普通に考えると、「がんの治療を直接の目的」としているのではなく、「がん治療の結果発症した『副作用の治療』を直接の目的」としている、よって非該当、と思われる方もお多いのではないでしょうか。

 生命保険協会 「がん保険約款の実務上の諸問題」の報告では、「がん治療を直接の目的とする入院」についての解釈についても触れられています。その中で、生命保険協会の裁定審査基準の解釈を整理しているので抜粋しますと、「がん治療を直接の目的とする入院」とは、

(1) がんそのものに対する処置(抗がん剤治療や放射線治療など)

(2) これらの治療に伴い、生命維持のために必然的に付随する処置

を言うとされています。

また、同報告では、「がんの治療の結果、相当の可能性をもって生じる合併症については、生命維持のために必要な処置であり、かつ、がんの治療と時間的に近接している処置であって、社会通念上『がんの治療を受けることを直接の目的』とする処置と同視しなければ著しく不合理である場合は、例外的に、前記約款の『がんの治療を受けることを直接の目的として」』に 準じて取り扱うことが相当であるとも判断している」とのことです。

そして、この合併症の要素としては、

(1) 相当の可能性を以て生じること

(2) 生命維持のために必要な処置であること

(3) がんの治療と時間的に近接した処置であること

(4) 社会通念上、「がん治療を直接の目的とする入院」と同視しないと著しく不合理である

 こと

とされています。

としますと、個々の当てはめの説明は省略させて頂きますが、上記①の入院であればこれらの要素の充足にはさほど問題はなかったとのことなのでないでしょうか。②の入院については、これが比較的短期間の再発であった場合であれば、やはり同様ではあるとは思います。もっとも、長期間空けたものであれば、(3)の要素を否定する方向には働くものとは思います。また、(4)については、特に主観で振幅の大きそうな評価に係る事項ですので、なかなか断定的なことは申し上げられません、

この様な生命保険協会の解釈からしますと、上記のケースは支払われるべくして支払われたものであって、その某生命保険会社の取扱いが別に寛大なものということはなさそうです。

ダメもとで請求することを奨励するわけではありませんが、決めつけてかからない方が良いですよ、という参考にして頂ければと思います。

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