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  • 弁護士 岩山勝湖

最近のニュースから(コロナウイルスと傷害罪)

本記事を書いている時点では、コロナウイルスについてまだ収束の段階にはありません。しばらくしてこの記事を読み返して、そんなこともあったな、くらいに思える日々が早く訪れるのを待つばかりです。

ニュース記事で、「コロナウイルスをばらまく」と言って飲食店に出かけた男性について、傷害罪や威力業務妨害での逮捕云々という話が取り沙汰されています。

医療機関からは自宅待機を要請されていたという中で、この男性が本気でその様に考えていたのであれば言語道断、悪ふざけ程度の認識であったとしても、あまりにも軽率過ぎるとして、社会的制裁は受けて頂くことは仕方がないことと思います。私もその様な方が近隣にいたら憤ると思います。しかし、それと犯罪の成立ということについては切り分けて考えてみたいとは思います(傷害罪についてのみ取り上げます)。

傷害というと、一般的には流血事件のようなイメージになるかもしれませんが、その他にも人の生理的機能を害するような場合も含まれます(例えば、性病をうつす、無言電話を繰り返してノイローゼにするといったようなこと等)。その様な点からは、今回のような「コロナウイルスをうつすこと」もまた傷害罪に該当し得ることにはなります。

ただ、果たして本当にコロナウイルスをうつそうとする故意があったかというのは、直ちには分かりかねるところです。切りつけるような行為であれば分かりやすいのですが、「うつしてやる」と息巻いていただけでは、故意があったというには少々心もとないところです。もっとも、うつそうという意思があり、「うつすかもしれないが、そうなっても構わない」と思っていたのであれば、未必の故意はあったというところになりますでしょうか。一方で、冗談というか悪態をついていただけであれば、故意を認定出来ないということもあるかと思います。

仮に故意があったとしても、その男性のまき散らしに来たという行為によって、傷害の結果が発生したという因果関係がないといけません。聞くところでは、開店前にその男性が寝転がっていたソファーで新たに感染した店員の女性は接客していたとのことで、確かに、コロナウイルス陽性の方がうつした可能性はあるでしょう。しかし、より密接した場所でこの男性の接客をしていた女性には感染していないとのことであり、因果関係というとどうしても怪しさが伴います。それに、検査をしていない多くの一般市民のうちに陽性の方がいる可能性もありますし、感染した女性も他の接触者からうつされた可能性もそれなりにあるわけです。「この男性」以外に、感染した女性が行動していた地域では陽性の方がいない、ということであればともかくとして、無数に他の可能性がある以上は、この男性のまき散らし行為「によって」傷害結果が生じた、とすることは困難であろうとは思います。

このことは、男性に故意はなく過失に留まるとしても、同様になるものと言えます。

ただ、この理屈をそのままあてはめると、ひどい風邪をひいている方が、仕事があるから風邪をうつしてもしょうがないと思って出勤したという場合まで、傷害罪だ何だと取り沙汰されてしまうことになりかねません。今は、コロナウイルスという見えざる敵と対峙しているという特別な事情がそうさせているのだとは思うのですが、社会の同調圧力の怖さを感じた一面もあります。

もっとも、これだけ記事に取り上げられることで、体調が悪いならば不用意に外出しないようにしよう、ましてや人の不安を煽るような発言は慎もうという威嚇効果は十分あったと思います。

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