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  • 弁護士 岩山勝湖

消費者契約法9条1号の「平均的な損害額」について

(本ブログは、平成31年1月に記した内容の再掲となります)

 先日、私の関与先であるクリニックを経営している方から、患者様から治療費の返金を求められていることについての相談を頂きました。

事案を簡単に書くと、ある自由診療の治療費に関することで、それを自己都合で解除したことに伴う返金の話になります。

診療契約も消費者契約法の適用がありますので、仮に「一切返金は致しません」と書いて、同意をしていたとしても、それを盾にして返金しないということは、基本的に出来ません。また、「平均的な損害額」(消費者契約法9条1号)を超えて損害賠償の予定額なり違約金の額を高額に設定しても、当該部分は無効です。

もっとも、「平均的な損害」とは一体どういうことなのでしょうか。その意味については、判例において細かな表現の差異はありますが、整理するならば、

「同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という趣旨である。具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値を意味する」

といったことになります(消費者庁のHPより)。

ただ、これだけではよく分かりません。そこで、もう少し検討をしてみようと思います。皆さんは、債務不履行の場面等において、「信頼利益」ですとか、「履行利益」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「信頼利益」とは、分かりやすく言ってしまえば、契約が有効と思ったことによって生じた損害のことです。一方、「履行利益」とは、これも分かりやすく言えば、その契約によって得られたであろう利益(が無いという損害)のことです。

消費者契約法9条1号の「平均的な損害」の土台には、民法の債務不履行の概念がありますので、上記の「信頼利益」・「履行利益」という概念と無関係ではありません。もっとも、判例や議論の状況を見ますと、「信頼利益」・「履行利益」のどちらかといった白黒はっきりしたことではない模様です(このことを細かく考察している資料として、以下を参照致しました。 http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/10774/1/genhou30-08.pdf)。

今回ご相談を受けた自由診療の例で言えば、次回(複数回で1クールとなる契約です)の治療行為のための準備の費用を以って、目先の損害は填補されるとも考えられる一方、その複数回のクールが通常は全て実施される筈のものとの前提に立てば、全ての回を終えることによって得られた利益までを損害として取り込むことも、あながちおかしなことではないとも思われます。

尚、携帯電話の中途解約の違約金については、かなり皆さんの身近な話題とは思いますので書いておきますと、(今後緩和されていくことにはなりそうですが)いわゆる「2年縛り」における1万円近くの違約金について、控訴審判例では、契約が期間満了時まで継続していれば得られたであろう通信料収入等を逸失利益と認め、履行利益にまで及ぶことを明らかにしているものがあります。

これは、消費者契約法において損害の概念に手を付けてはいない以上、解釈も民法から変わらないということなのでしょう。しかし、立場を変えて一消費者として見るならば、先ほどは履行利益まで取り込んでもあながちおかしくない、と言っていたこととは異なり、何のための消費者契約法なのだという思いもなきにしもあらずです(尚、このことに関する議論として、先に引用した資料に加え、以下を参照致しました。 http://www.soumu.go.jp/main_content/000367606.pdf)。

弁護士が、日常業務の中でクライアント(時には相手方になります)の方に平たく質問をするならば、「『普通は』または『大抵は』どれだけの準備をしなければならないもので、それによって『普通は』または『大抵は』どれだけ損するものなのか教えてください」、というところから紐解いていかねばならないと思うところです。

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