大理石

<WFH(在宅勤務)と労働法>

1. はじめに  

   令和2年の冬から春にかけて発生したコロナウイルスは、多くの感染者を出すとともに経済活動を停滞させ、東京オリンピックを延期せざるを得ないといった猛威を振るいました。

 その一方で、特にオフィスに勤務する人びとを中心に、今まで制度としては導入されてはいるもののなかなか浸透していなかったWFH (Work From Home・在宅勤務)を半ば、必要に駆られて推し進めるという副次的な産物を発生させるという効果もありました。

 そこで、今後の働き方が大きく変化して行くであろうことを踏まえ、WFHによって出て来るであろう労働法関連の疑問について検討致します。

2.残業代

   在宅勤務であっても、労働時間の概念が変わるものではありませんので、会社の就業規則に従って所定労働時間を超過した場合には、残業代が発生します。

 会社によっては、「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法第38条の2)を採用したいということもあるでしょう。この「事業場外みなし労働時間制」とは、簡単に言えば、リモートワーク等のために労働時間の把握が出来ない場合に、一定時間労働したとみなすという仕組みです。会社の言い分としては、実際に常に従業員をウオッチしているわけではないですし、日中適当にサボられて夜間に残業代だけ稼がれても困るといったこともあるのだと思います。しかし、「事業場外みなし労働時間制」の適用については、大変厳しい条件の下でないと認められないというのが厚生労働省の考え方です。これについて、厚生労働省の「テレワーク総合ポータルサイト」(https://telework.mhlw.go.jp/)から該当箇所を引用しますと、以下の通りです。 

 在宅勤務時に事業場外みなし労働時間制を導入する場合には、次の条件をみたす必要があります。
 (1)当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
 (2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
        →「使用者の指示により常時」とは、在宅勤務者が自分の意思で通信可能な状態を切断することが認められていない

                状態をさします。
         →「通信可能な状態」とは、在宅勤務者に対して電子メール等により具体的な指示を随時行うことが可能であり、

              在宅勤務者がそれに即応しなければならないような状態の意味です。たとえば、インターネット等の回線の接続が

              されているだけで、在宅勤務者がパソコン等の情報通信機器から離れることが自由である場合には、「通信可能な

              状態」にはあたりません。
  (3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
           →業務の目的、目標、期限等の基本的な事項を指示することやその変更を指示することなどは含まれません。

   すなわち、会社側が労働時間を把握する術がないと認められる程度に至る必要があるところ、在宅勤務については言えば朝夕の業務報告等の時間を設ければ労働時間の把握は可能ですので、この「事業場外みなし労働時間制」制度の適用に至るケースは多くはないのではないかと考えられます。

​ 併せまして、厚生労働省の資料を掲示しておきますので、ご参照下さい。 

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3.通勤交通費

 多くの方は、オフィスに通勤することを前提に、通勤交通費を会社より支給されているのではないかと思います。この通勤交通費については、在宅勤務になると支給はされなくなっても仕方ないようにも思えます。

 しかし、これはあくまでもケースバイケースです。今は会社が通勤交通費を支給することが当然にはなっていますが、通勤交通費の支給は法令上定められた義務ではありません。ですから、就業規則において「通勤交通費は支給しない」という決まりであるのであれば、それもまた有効ということになります。

 多くの会社では、就業規則またはそれを受けた賃金規程や通勤交通費に関する規程等を作成して、それに基づいて交通費を支給しているのではないかと思われます。この就業規則は、従業員に対して適用される最も上位のルールであるとともに、会社も遵守しなければいけないものです。従いまして、端的に「通勤交通費を支給する」としか書いていない場合には、在宅勤務をしている場合でも、会社は通勤交通費の支払い義務を免れないことになります。一方で、日割り支給等の定めを細かにしている場合には、出勤がない以上は不支給も可能ということになります。

 就業規則も可変のものですので、今後、在宅勤務が通常ということになれば、会社としても就業規則を変更して交通費は実費支給にするといった内容に変更していくことが考えられます。

 尚、就業規則の変更自体は所定の手続きを経ることで可能ですし(労働契約法第10条・第11条・労働基準法第89条・第90条)、交通費自体は賃金ではないので、実費支給自体が不利益変更とは言えないでしょうし、仮に一応は不利益変更だと言えるとしても、合理性を否定される類のものではないとは考えられます。但し、在宅勤務で細々とした出費が発生する場合もありますので、一定の代償措置(在宅勤務手当として月~支払う等)はして良いのではないかと考えられます。

4.通信費等の負担

 在宅勤務を行う場合には、自宅のWi-Fi環境を利用するために通信費がかかるでしょうし、パソコンを使用するために電気代も発生します。更には、会社(管理者)とのコミュニケーションのための電話代、作業のために必要となる文具代といったこともあるかもしれません。

 法令上、自己負担とすることが禁止されているわけではありませんが、労働基準法第89条第1項第5号では、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合におい ては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と規定されていますので、必要に応じて就業規則 の変更をしなければなりません(厚生労働省 「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」より)。とすれば、何も決めていない場合にはあくまでも会社の負担ということにはなります。

​ もっとも、自宅のWi-Fiを業務用と個人用に切り分ける等は現実困難でしょう。現実的には、みなしでしか算定出来そうにない費目については、3.で書いたような在宅勤務手当として一定額を支給する等の措置になるのではないかと考えられます。その他、文房具代や郵送代等実費が管理できるものは、今までと同じくきちんと領収証を保管して定期的に経費精算になるのではないかと思われます(予め在宅勤務手当に含ませた上で、一定額を超えた場合には実費精算等も可能であるとは思いますが、計算が複雑にはなりそうです。)。

 パソコンの経費負担については、大抵はセキュリティ上の問題から会社貸与ではないかと思いますので、ここでは割愛します。

 上記で触れた、「厚生労働省 「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」のファイルを添付しておきますのでご参照下さい。

5.執務スペースの確保

  在宅勤務という以上は、原則としては自宅において勤務をするという形態が基本です。しかしながら、実際には自宅では十分な執務スペースを確保できない、家族の声が聞こえたり目に触れてしまうという理由等から、近隣のシェアオフィスを借りたり、ビジネスホテルがデイユースで在宅勤務者の執務スペースを売り出しているような場合もあるのが現実です。

 その場合の費用を会社に負担させることが出来るかは、上記の交通費や通信費等と同じように何らかの形で定めておくべき、ということ以外には一概には言えません。しかし、例えば会社の業務命令として在宅勤務をしている場合で、業務の性質上から独立した空間が必須あるいは会社がその確保を求めているといった場合には、会社の経費負担とすることが考えられます。

6.企業側の安全配慮義務

  在宅勤務は、一見自分で時間を組み立てやすい、家事をこなしながら業務が出来る、通勤時間が削れて有意義であるといったメリットは多くあると思います

 一方で、いつでもパソコンを見ることが出来てしまう反面オンとオフの切り替えが難しい、ミーティングがないと孤独なまま一日を過ごすのでストレスが溜まる、知らず知らず業務負荷を調整出来ずに過重労働になるといったデメリットも考えられるところです。

​ 会社は、在宅勤務であったとしても勤務時間中である以上、労働者に対する安全配慮義務を負っているということには何ら変わりません(労働契約法第5条)。従いまして、例えば会社が労働時間管理を怠ったり、定期的なコミュニケーションの場を設けないといったことによって、労働者がうつ病を発症したような場合には、会社は安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

労働者側だけではなく、使用者側としても参考になる情報を盛り込んでおきました。

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